漏れ出る熱

細かい話をします。

断熱や気密に関する講釈はこれまで何度も書いてきました。今回は、「案外盲点になっている箇所」についてお話ししたいと思います。

最近はリビングなどのメインの照明でダウンライトを使う住宅も増えてきましたね。見た目スッキリで私も好きです。

ただ、このダウンライト、特に気密の点で若干くせもの。
照明を天井に埋め込む必要があるので、天井に約10~15センチ程度の穴を開けなければなりません。

天井の穴は、照明を取り付けやすくするために本体より数ミリ大きめに開けます。 穴と本体がピッタリミッチリ密着して気密性OK!という現場を私は一度も見たことがありません。そしてその穴のスキマは、照明を埋め込んだ後は特に何の処理もされず放置されているケースがかなり多いんです。

壁や天井は、気密シートで覆って気密性を確保します。コンセントなど壁に穴があく箇所はバリアボックス、換気扇などのダクトまわりはドームパッキンと呼ばれる専用の部材があります。これは商品名かな。どちらも気密シートを切って穴が開いた部分をカバーし、さらに気密テープを圧着することで、気密性を維持することができる部材です。

コンセントのバリアボックス。ちょっと見づらいですが、黒いコンセントボックスよりも2~3センチ大きい半透明な箱をかぶせています
ドームパッキン。T邸で撮った画像ではわかりやすいものがなかったので、昨年の現場写真から引っ張り出してきました。気密シートはメーカーによって赤や緑などいろいろです。

ここまで気密をとっているのに、ダウンライトで直径10センチの穴をあけてたら何の意味も無い。もちろんここも隙間を塞ぎたい。ですが、ダウンライト用の気密部材って流通してないんです。無いのか~しょうがない、で放置するはずがない。私が設計施工をする住宅に関しては、ダウンライトの気密をとるための箱を自作しています。

合板などでダウンライトが入る箱を作って、その内側に気密シートを張り、天井のシートと連続するように気密テープを貼ります。こうしておけば、このあとダウンライトを設置するときに天井に開ける穴がいくら大きかろうが、 気密の損失を防ぐことができるわけです。

箱を設置してから天井の気密シートを張り、切り込みを入れて箱のほうの気密シートと連続させます

調べてみたら、やはり断熱・気密を重視する設計屋さんや工務店さんは、同じことを考えているようです。
そして専用商品もありましたね。ちょっと汎用性がなくサイズが大きすぎるので私は使いませんが。

箱を作ることはそんなに手間ではないんですが、わざわざこんなことをしなくても、という思いはずっとあります。T邸は個数が多かったので、箱を作ってその内側に気密シートを張って電線通して天井に設置するまで合計半日はかかりました。コンセントのバリアボックスみたいな専用部材があればその半日はまるまる別な仕事が出来るのにと思うと、不毛です。

なんでダウンライト用が無いんだろう。バリアボックスと形は一緒で、もうちょい大きめに作ってくれりゃいいだけの話なんだから、出来ないこと無いでしょう。需要無いのかなあ。商品化、切に願います。

そもそもの話、気密性が高いからといって何がいいのか。それは「暖かい・涼しい空気を逃がさない」という快適性に繋がる要素ではありますが、最も重要なのは「住宅の寿命を延ばす」ということです。

冬、気密が損なわれた部分では、部屋の暖かさと外の寒さの温度差によって結露が起きます。これは夏でも同じこと。冷房した部屋と暑い外との温度差でも結露します。これが天井裏や壁の中で起きたら拭くことも乾燥させることも出来ません。結露が放置されればカビの発生と腐敗。行く末は簡単に想像できますよね。

こうならないために気密をしっかりとったうえで、隙間なく断熱材を施工する。さらに言うと、万が一結露が起きた場合でもきちんと乾くよう、気密シートの外側は通気性を確保しておく。それが出来て初めて、まともな居住空間が完成します。断熱も気密も手を抜いてはならない。私がしつこくこだわるのはこの部分です。何十年後かに「建ててから随分経つからある程度腐りや劣化があってもしょうがない」じゃなく、建てるときに気を配ることで防げることはいくらでもある。

また語り過ぎました。

そんなわけで、T邸は薪ストーブの煙突があいているので超高気密とはいきませんが、それ以外の部分での気密性はけっこう良いところまでいってるんじゃないかと思います。