君たちはどう働くか

ブログを書いていると、入り口は違う話題なのに、最終的には同じような結論に行きつくことがよくあります。まあ、同じ人間が書いてる事なので当然といえば当然ですけども。

たとえば、無知な会社、テキトーな業者が多い!みたいな事は、つい先日もグチったばかり。
ちょうど「そうそう正にこういう事だよ」というエピソードがあったので、具体例として記録しておこうと思います。
短くまとめるのがどうも苦手でして、長くなりますので、お時間のある方だけどうぞ。

 


 

つい数日前、私が木工事をやっている現場に、電気屋Kが配線工事に来た。

Kとはけっこう古い付き合いになる。Kは今でいうところの「陽キャ」で社交的、多数のハウスメーカー・工務店の現場を担当して現場を渡り歩いているため、情報屋的な存在でもある。休憩時間はKが出入りしている会社や現場の状況を聞くのが恒例だ。

その電気屋Kは、休憩時間にため息をついて言った。
「W工務店のSって大工、知ってる?あいつちょっと頭おかしいんだよ」

知ってるもなにも、いま私がやっている現場の元請け会社は、S君も請負大工で入っていた時期がある。一般企業でいうところの「元同僚」的なやつだ。一緒に建て方をやったこともあるし、知らない間柄ではない。自分のペースやこだわり(現場の整理整頓)を乱されるのを非常に嫌う、几帳面な人物だ。

Kの愚痴るところによると、W工務店の最終の電気工事に入ったら、大工のS君がしておくべき、配線に必要な段取りが一切されていなかったそうだ。

電気屋は通常、大工が木工事をしている最中、数回に分けて工事に入る。初期に屋根裏・天井裏に配線をしてコンセント等の想定位置まで電線を引っ張っておき、大工が断熱材や壁を施工したのち、終盤にその壁にコンセント等の器具を取り付ける。電気屋に限らずだが、大工は様々な業者との連携も大事な仕事のひとつだ。

大工は石膏ボード等で壁を作るとき、電気器具を取り付けるための配線をさばき、電気屋が照明やコンセント等を付けるための段取りをしておかなければならない。それが無いと電気屋が器具付け出来ない。S君はW工務店の現場でそれを一切やらなかった。そのため電気屋Kは作業にめちゃくちゃ時間がかかり、一部は壁を剥がして配線しなおしたりする羽目になったそうだ。

照明用の配線は壁から出し、換気ダクトは石膏ボードを抜いておく、ここまでが大工の仕事。この後、電気屋が器具付けに入る。
大工が穴を抜かず、こうやって印を付けておいて、電気屋が穴をあける場合もある。電気図面は細かい寸法が記載されていないことも多いため、大工がこうやって印をつけておかないと、どこに照明を取り付けるかわからない場合も多い。

Kの話を聞いて私が想像するに、S君にもそれなりの言い分はあるなと思った。なにしろKは大雑把な性格である。仕事を何件も抱えていることもあって怒涛のように配線して次の現場へと向かう。Kの仕事の後は嵐が去ったようである。作業で出したゴミの片付けも大雑把、散らかしたままのことが多い。私も、フロア貼りをしようと床を掃除しおわったところに配線のゴミを撒き散らかされてイラっとしたことが何度もある。私はKと付き合いが長いので直接文句を言えるが、S君はそうではあるまい。Kが現場に入るたびに自分のペースも現場も乱されていたS君の感情は想像に難くない。

KはS君のことを「頭がおかしい」と言ったが、S君から見たKも同じだろう。S君はKの作業態度についてW工務店に注意喚起したが、改善されないままだったようだ。今回、意地の悪い方法で報復に出たわけだ。

一体、誰が悪いのか?私に言わせればそんなのは「どっちもどっち」。自分の作業の後始末も出来ないKが事の発端ではあるが、S君もそれを仕事の嫌がらせで返すのは職人としてナシだ。そしてこんなふうにくだらない現場のいざこざを事前に処理できないW工務店が最も罪である。

 

誰が悪いか、と書いたが、正直、そんなものはどうでもいい。
私が最も言いたいのは、・・・もう何度も言ってきたことだが、これが「施主の家の建築現場で行われている」ということだ。

 

登場人物は1人として施主の存在を意識していない。Kは自分の仕事さえ終わればいいと思っているし、S君は施主の家を嫌がらせの手段に使っている。そして何より、それを制御できない、業者にナメられている元請けのW工務店。自分のお客さんの家がぞんざいに扱われていることに怒ることもない。

電気屋というのは建築知識を持たないので、断熱・気密だのをきちんと理解して施工している職人はかなり少ない。Kが壁をはがして配線しなおしたと書いたが、場所によっては断熱・気密を欠損させている可能性もある。その可能性を知っていながら、S君は自分の感情を発散するために嫌がらせを実行した。S君に進言されたのに、W工務店は曖昧に事を収めようとし、指導をしなかった。みんな自分の都合や感情を優先し、施主の気持ちになったらという発想は皆無だ。

最も懸念すべきは、元請けがナメられているせいで、各業者が「この程度の仕事でいい」と認識していることである。正しい施工を指導し、精度を逐次チェックするような会社であればこんな事は起きるはずもない。この会社自体、断熱気密欠損に対する危機感も無い(その可能性を想像出来ない)ことは、この一件があってなお電気屋に施工方法・精度について何の指導も無い事からも明らかだ。もちろん、これが施主に伝わることなど絶対に無いだろう。


完成した家は満足のいくものだろうか?
品質は、きちんとしているのだろうか?

「施主の気持ちになって」なんていう偽善的(と言われがち)な考え方では、鼻で笑う人もいるのかもしれない。では、言い換えて、「仕事として、職人として、自分の行いを認められるのか」とすればどうか。

自分のやっている仕事の意味を考えたことがあるか?職人としてレベルの高い仕事が出来ているか?同業者に自分の仕事を見せられるか?その同業者から、信頼・尊敬される自信があるか?

 

私はこのブログで幾度となく「現場の業者の実情なんてこんなもの」と書いてきたが、今回、あまりにわかりやすい事象だったので具体例として書き残すことにした。これは特別な例ではなく、こういう事は日常茶飯事である。施主の気持ちで(自分の家をつくる気持ちで)仕事をしている人間などほんの一握り、下手すれば一人もいない現場もあるだろう。現場監督でさえ「スケジュール通り進める」が最優先、施工精度など見もしない人間ばかりである。

「施主のために」という考え方は、一度も施主と顔を合わせることがない業者にとって難しいことではある。(大工は施主と会わせる会社もあるが、一度も顔を合わせないところも多い。)
では、その行いはプロとしてどうなのか。自分の仕事にプライドは無いのか。誰に見せても恥ずかしくない仕事をしているのか。

結局、「金がもらえればいい」「最終的に形になってれば内容なんてどうでもいい」が勝つことになる。本人たちも、悪意をもってそう考えているわけではないだろう。ただ無意識に、楽な方へと流れていく。元請けの会社が指導しなければさらにその傾向が強くなる。自分と仕事に誇りを持たない職人は、そうやってどんどん質が悪くなっていくのだ。

誰のための家をつくっているのか。自分の職人としての誇りは。そんなことを自問自答している人はとにかく少ない。

 


 

施主が快適に安心して住める家を作りたい、自分で自分を認められる職人でいたい。そう思っている私が高尚な人種に思えてきます(笑)が、もちろんそうではないでしょう。一般的な感覚や施主の立場からしたら、職人が最善を尽くして良い家を作ることこそが当然のはずです。現場と世間の感覚に激しい乖離がある。「建築業界の闇」とは大げさかもしれませんが、あまりに知られなさすぎなので、とてももどかしく思います。

だからといって、「ちゃんとした職人が作る家が欲しい」となったらどうやってどの会社に頼めば良いのか。一般の方が「闇」を見抜くのは難しいので、明確な答えを出せないのがさらにもどかしい。

しいて言うなら、建築の知識をちゃんと持っている会社を見つける事でしょうか。今は公式サイトやブログ、SNSもある便利な時代ですので、追っていくと会社の姿勢がなんとなく見えてくると思います。専門的な話を真面目に語ったり、職人の人となりがわかるエピソード、現場の雰囲気が伝わってくる写真。イベントや引渡しなどの楽しい話題だけではない、そこで働く人の心情が見えるようなものを探してみてください。そういう意味では、本当に満足できる家を建てるためには、施主側もけっこう事前の調査が大変かもしれませんね(^^;