T邸の完成

2020年2月、約9か月の時間をかけてT邸が完成しました。まだ少し細かい所は残っていますが、ひとまず完成として、次回からT邸の仕上がりをご紹介します。

ここでは、どのような計画のもと、こういう家が完成したかを書き留めておきたいと思います。

家づくりをするにあたり、Tさんの希望は大きく分けて3つありました。

1.冬あたたかい家にしたい
2.50年もつ家にしたい
3.楽な家にしたい

1.冬あたたかい家にしたい

これは寒い地域に住む人なら誰もが持つ希望だとは思いますが、T邸の場合は薪ストーブの導入が第一条件です。薪ストーブ1台あれば家じゅうを遠赤外線でポカポカとあたためてくれるはず。

ただ、薪ストーブを稼働させる前後の春や秋、さらには、薪の自家調達が困難な年齢になったときにどうするのか。「冬(薪ストーブをつけてる時だけ)あたたかい家」と限定的にならないよう、家の性能全体を上げることも絶対条件としました。薪ストーブの「あたためる力」だけに頼らない、快適になった温度を逃がさず維持してくれる家を基本の仕様としました。

2.50年もつ家にしたい

T家は40代夫婦二人暮らし。「自分達が死ぬまで、うまくいけばあと約50年。それまでの時間を快適に過ごせる家にしたい」というのが条件です。

住まいの性能を高めて快適な住空間をつくることに加え、経年劣化のリスクをなるべく減らした材料選びと施工方法。修繕が必要になっても、なるべく手間とメンテナンスコストがかからないように建てること。

例えば、屋根。
T邸で採用した「片流れ屋根」は雨仕舞い(躯体への水の侵入を防ぐ施策)のうえで有利で、雨漏りのリスクが低い形状です。形が複雑ではなく施工もシンプルなため、老朽化による不具合の修理や葺き替えがあってもコストが低く抑えられます。
こうした基本的な作りの部分からメンテナンス性や快適性をベースに考えた家となりました。

3.楽な家にしたい

楽な家とは、ここでは、無理しないこと。心地良いこと。そして何より、できるだけ働かなくていい家であること。(笑)

段差解消や手すりの設置など、基本的にはバリアフリーに近い作りとなっています。加えて、「楽な家」のための要素として、【無駄な動作を極力省いた配置であること】例えば照明スイッチの位置は、一般的な高さよりかなり低い位置(だいたいドアノブと同じ高さ)に設定し、腕の上げ下げが最小限になるようにしてあります。【収納に扉を付けない】【風呂、寝室、トイレを隣り合わせで配置】【脱衣室に洗濯&物干しスペース】高齢になっても楽に生活できることが目的ですが、そのように計画することは、今の時点で既に「暮らしていて楽」になる家でもあります。

 

夫妻には子供がおらず、今後も予定は無いため、完全な二人暮らしの家としての計画です。(立ち入った個人情報ですが、「事情を説明しないと理解に苦しむ家でしょ(笑)」との施主さんからのご希望で、あえて記載しています)子世代がいないぶん家族構成の変化が無いので、「今の暮らし」をいかに持続していけるかが鍵となります。仕事をやめたとき。身体が不自由になったとき。一人になったとき。なるべく周りに頼らず自分たちの力でつましく暮らせる家。無理せず、自由に生きられる空間。そのために性能を高め、使い勝手や暮らしやすさを考え、メンテナンスやランニングコストを最小限に抑えた家をつくる。それがT邸の最も大きな目的です。

「子供がいないことは自由だけど恐怖でもある。孤独死する確率が高いからね。でも、自分の家があれば、そこで死ねるならそれもいいかなと思えた。死ぬまでの時間を一緒に過ごしたこの家でなら、死んでもいいかなって」
いやいや、人生まだあと半分あるんですけど!(笑)

「子をもつことを諦めていった期間と、自分の家を建てたいと思っていた期間がほぼ重なってるんです。別にそこに因果関係は無くて、自分の家が自分の子供だとも思わないけど、目標があったからまぎれた部分はある。家を建てようっていう目標があったから、普通でいられたっていうか。だから思い入れは強いと思う」
その言葉の通り、はっきりした意志のもと計画された、目的の明確な家になりました。ちょっと変わってるけど、こうしたい!がはっきりしている。要るものと要らないものの区別がはっきりしている。約10年をかけて少しずつ、その答えにたどり着いた。

「これから家を建てたいっていう家族に参考にならない家(笑)」そう言って提供してくれたTさんちの写真を、次回から数回にわたって掲載させて頂きます。