寿命を延ばすのは人の意志

先日のリフォーム現場の話で、「家は建てたら終わりじゃない」と書きました。

実際、家ってどのくらい持つんでしょうね。
そして、それを想像したうえで家を建ててる人って、どのくらいいるんでしょう。

 

今から2~30年前。
日本の住宅はよく「スクラップ&ビルド(古くなったらより良いものに建て替える)」と表現されていました。

高度経済成長期、ガンガン建てまくった住宅は言うなれば「質より量」。「夢のマイホーム」としてとにかく一軒家を建てることがステータスであり、家の品質・快適さなどという概念はほとんど存在しませんでした。
そして30年そこらで見るからにボロくなり、「息子が結婚するから家を建て替えるか」なんてパターンがよくありましたね。
平成8年の統計で「日本の住宅の寿命は平均26年」というデータがあります。新築→解体のスパンが26年ということです。まさにスクラップ&ビルドという表現がふさわしい。
時は過ぎて、令和。
経済の縮小、耐震偽装問題や大きな災害を経て、住宅は「長く安全に住む」ための「質」が重視される時代になりました。住宅の寿命はこれからどんどん延びていくでしょう。

はい、毎度のごとく前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

この「寿命が延びる」っていうのはあくまでも「壊さないで長く住み続ける努力をする」ことであって、【”質が良くなったから長持ちする”という意味ではない】ということをはっきり言っておきたいと思います。

建材の質がたとえ昔より良くなっていたとしても、決してメンテナンスフリーではありません。特に外装は紫外線や気温、酸性雨、積雪など沢山の要因によって、絶対に、全ての家が必ず劣化します。現代の住宅は劣化の速度は昔より遅いでしょうが、死ぬまでほったらかしでOKという家は存在しません。

そして最も大事な考え方ですが、何よりメンテナンスというのは(木造住宅においては特に)【構造を守るために行わなければならない】ものです。

屋根の葺き替えや外壁の塗りなおし、街なかでもよく見る光景です。そのリフォームは、見た目が古くなったからやっているのではなく「雨水が躯体まで侵入して腐る(=構造が弱くなり家が倒壊する)のを防ぐ」ことを目的としています。

正直、見た目を気にしなければ壁紙の張り替えなんて一生やらなくていいし、床がはげてきたって気にしなきゃ生きていける。見た目や使い勝手を良くするリフォームなんてのは、お金に余裕がある時にやればいいんです。
しかし躯体に影響する恐れがある部分は絶対に点検を怠ってはいけない。放っておくと修繕に莫大な費用がかかることはもちろん、長年放っておけば、安全な暮らしを失うことになりかねません。

大手ハウスメーカーやアフターまで徹底した建築会社では1年・3年・5年・10年と定期点検が徹底されている会社もありますが、うやむやにしている会社が多いのもまた事実。(くだんのリフォームの家はまさしくそれにあたると思います)日本は根本的にメンテナンスの概念がきちんと根付いていないため、多くの家は「不具合が出て初めて修繕する」パターンです。

そして、目に見えて不具合が出ているケースは既に躯体に影響が出ていることも多い。住宅の寿命は延びるどころか、本来備わっている耐用年数よりも短くなり、修繕の費用も莫大になる。結局「直すくらいなら建て替えたほうが」という決断を迫られ、時代遅れのスクラップ&ビルドを繰り返すことになります。住宅の性能がいくら上がっても、適切にメンテナンスをしなければ30年そこらしか住めない家になりかねません。

「長期優良住宅」という言葉を聞いたことがありますか?「長期優良住宅」として定められた仕様で建てると補助金が出たりするので、今は長期優良住宅仕様で建てる家も多いです。
この長期優良住宅は「いいものを作って、きちんと手入れをして長く大切に使う」ということ。決して「何もしなくても長期的に優良な性能が維持できる家」「長持ちする素材で作ってるからメンテナンスが要らない」ってことではありません。他の家より点検やメンテナンスのスパンを長くしていいということでもありません。長期優良住宅はメンテナンスのしやすさが認定事項に入っているため、何かあった時に手入れしやすいというメリットはありますが、全ての家は等しく定期点検とメンテナンスは必須なのです。

車はみんな2年ごとに車検するのに、なんで家は点検しないんでしょうね。車はもちろん点検しないと命に関わるから法律で決まってるんだろうけど、家だって放ったらかしておいたら命に関わります。家も何年かごとに定期点検しなければならないって法律で決めてくれればいいのにね。

木造住宅は本来、100年はもつものです。木は腐りやすいですがきちんと乾いた状態であれば構造体として100年もたせられます。そのあるべき寿命を、ほったらかしで短くしているのは、外ならぬそこに住む人自身です。

人生80年。今はもっと伸びて、90年100年の時代。
マイホーム建築のボリュームゾーンは30代。もちろんみんな死ぬまでその家に住むつもりで建てるのでしょう。そのわりにメンテナンスに気を配っている人はかなり少ない割合しかいないと、個人的には感じています。人間と同じように家も老化します。終の棲家にしたいと思うならば、定期的な点検とメンテナンスは絶対に必要です。たとえ不具合があっても早期発見・修繕することで、寿命は伸ばせます。

家は建てたら終わりじゃない。むしろメンテナンスの責任が発生するので、”ちょっと面倒な人生の始まり”と言って良いでしょう。

その面倒な責任をちょっとでも軽くするのが私の役目。メンテナンスまで考えた家の話を以前しましたが、これは全ての家をつくるときに考えていることです。
ただ見た目が良いだけじゃない、性能が良いだけじゃない、そこで何十年も生活する未来まで考えた設計こそ、これからの長寿命住宅に求められている基本要素だと私は思います。